DS Fanboy インタビュー Starmen.net リード・ヤングさん by Eric Caoili
(例によって意訳・端折りアリ)
あなたはアメリカのファン達の熱意を語ることを抜きにして『Mother』シリーズについて適切な議論を行うことはできません。その熱意は二つのねじれた螺旋となり、ウェブ上の中でも最も熱心なゲームコミュニティ「Starmen.net」のDNAを紡ぎだしました。
『Mother2(英名:EarthBound)』が1995年にSNESでリリースされて以来、ニンテンドーオブアメリカはその後に続くタイトルとそのカルト達をほとんど無視し続けました。ニンテンドーの無関心と戦い、なんとか『Mother』の新作をアメリカでも発売させようと活動するStarmen.netのクルー達は、様々な才能と資源をかき集め、250ページ以上にも及ぶ『マザー・アンソロジー(EarthBound Anthology)』という本を作り上げました。Starmen.netの共同創設者であるリード・ヤングさんが『マザー・アンソロジー』の製作過程とその目的、そしてその未来について語ってくれました。
まずは『Mother』シリーズをよく知らない人のために、『Mother』の重要性について教えてください。一体、何故ファンをそこまで熱狂させるのでしょう?
やはりゲーム自体が変わってるっていうのがありますね。どのタイトルも普通じゃないです。かといって「オーイエー!ニッポンってマジで変だろ!」とかそういったやり方でアピールしたい訳ではありません。実際、『Mother』は大部分が欧米の文化を基にしたストーリーとなっています。例えば、"イエローサブマリン"等、いくつものビートルズに関する引用がゲーム内に登場します。そのシリーズのタイトル自体がジョン・レノンの歌、"マザー"への言及でもあります。
『Mother』は日常にありふりれたものとバカバカしい感じのものを何とかミックスして、ありふれたRPGとは一線を画すものに仕立て上げられています。このゲームには剣や盾は出てきません。世界地図も無いし、妖精やドラゴンも出てきません。そしてアニメ調のヘアスタイルや格好をしたキャラも出てきません。
しかしこのゲームは本当に愛に溢れたシーンが沢山出てきます。人里離れた全寮制の学校に住むガリ勉君のキャラクターのエピソードでは、別居しているお父さんに会うために寮を抜け出すことになり、親友の力を借ります。ようやくお父さん(有名な科学者)と再会を果たすと、彼はお父さんの研究の目的を理解するとともに、寂しかった日々を思いだします。お父さんはひと時だけ仕事を止め、食事を用意してあげるとすぐに仕事に戻ってしまうのですが、それでも息子との10年ぶりの再会は嬉しいと漏らすのです。『Mother』はユニークで、ファンタスティックなゲームです。それが僕らの愛する理由です。
もしそれだけ重要なシリーズであるならば、何故アメリカで発売されなくなってしまったのでしょう?アメリカでは日本ほどには成功していないから?
最初の『Mother』はアメリカでもNESで1990年に発売される準備が出来ていました。あとはパッケージを印刷して、ちょっとした広告を打って(当時、アメリカではRPGがそれほど人気が無かったため)発売されるのを待つだけでした。
ところが残念なことに、時はSNES時代に差し掛かったあたりでニンテンドーオブアメリカのマーケティング部がSNESに注力するために発売を取りやめてしまったのです。この辺の経緯はLost Levelsによる、ローカリゼーションを担当したフィル・サンドホップさんへの
インタビューにより明らかになっています。
1995年になって日本の『Mother2』が、アメリカでは『EarthBound』のタイトルで発売されました。ただ残念なことに当時のアメリカは、『EarthBound』にとってはあまり理想的な状況ではありませんでした。当時は『クロノトリガー』や『FF』など、他にRPGゲームのライバルが多く存在し、ニンテンドー自身もバーチャルボーイのマーケティングに注力していました。さらにプレステも登場したばかりで、ニンテンドウ64も発売間近に控えるなど、誰も聞いたことのないRPGなんかには出る幕のない時代だったんです。
『EarthBound』にとってマイナスになったもう一つの要因が、$70という高価格でした。この価格設定は、当時のカートリッジ用チップの不足が原因でした。しかし僕が思うに、高価格となった最大の原因は、ゲームにガイド本が同梱されていたことです。プレーヤーにはガイド本を別途購入するという選択肢がありませんでした。そのため、パッケージ箱も巨大なものとなってしまい、お店ではゲーム棚の底の方か棚の上に追いやられるハメになってしまったのです。
個人的に最も命取りになったと思うのは、『EarthBound』につけられたキャッチコピーだと思います。 “このゲームはにおうぜ” 冗談じゃなく、本当にこんなコピーだったんです。
そして、最後の『Mother』が海を渡ってから10年が経ち、Starmen.netのコミュニティは、過去に意味をなさかなった嘆願書よりも、もっと効果的な方法を取る必要があると判断しました。そこで我々に「マザー包囲網」作戦とそのゴールについてお話し頂けますか?
その作戦は、ほとんど僕らの集大成といえます。僕らは嘆願運動とファンアートの募集を行うことにしましたが、それは決して狙って同時に起こしたものではなく、感覚に基づいて自発的にやることになったのです。
この作戦のゴールは二つです。まずは『Mother』について語れる人を集めてニンテンドーにその声を届けること。ニンテンドーは消費者の声を聞くために、いくつかの窓口を設けています。僕らはそれを利用して『Mother』ファン達にその声を届けてもらい、時にはファンアートなんかも送ってもらっています。
しかし僕らみんなにコレをやれ、アレをやれと具体的に指示したりはしません。僕らはただニンテンドーに何を望んでいるのかを彼ら自身に話してほしいだけなんです。『Mother』ファンが12年も続編を待ち続けいてるのは何も驚くべきことではないのです。
そして『マザー・アンソロジー』につながるわけですね。
ええ。『マザー・アンソロジー』は「マザー包囲網」作戦の一つです。その目的はシンプルで、『Mother』の名を広めることにあります。僕らはその最高の方法が『Mother』ファンの優れた才能を披露してもらう事だと思いました。そして信じられないほど沢山のすばらしいアートが集まりました。その証明にお気に入りのをいくつか見てみてください。
http://www.dsfanboy.com/photos/earthbound-anthology-reids-favorites/
本のアイデアはぼくらのデザイナーをやってくれたジョン・ケイによるものです。全268ページで、そのうち230ページにアートワークは含み、フルカラーで完璧な装丁の本というアイデアです。最初の30ページは、『Mother』シリーズと北米での不運な状況についての説明です。どんなゲームでどれだけ素晴らしかったのか。何故アメリカではそれほど売れなかったのか。そして僕らがそれを復活させるに値すると考える理由についても。印刷することのできないアニメ
や映像、音楽などはDVDに収めました。
本の制作と編集には一ヶ月以上かかりました。最初の2週間はろくに寝ることもできず、悪夢のようでした。編集が終わる頃、かかった出版コストを補填するために出資してくれる人を募りました。僕らは$2,500くらいは集まるかなぁと思っていたところ、最終的には$7,500も集まりました。
僕らは同じように『Mother』の発売に賛同してくれるゲーム業界の有力者(大部分はブロガーと雑誌編集者)を探すために、彼らに出来上がった本を送ることにしました。E3前に完成することができれば、興味を持ってくれた人がニンテンドー関係者に質問してくれるかもしれないと考えたのです。
本が彼らの手に届いてから時間が数ヶ月経ちましたが、このキャンペーンはどの程度の効果があったと思われますか?作戦のゴールを考えたうえで、出資者からそれだけの値打ちがあったと言ってもらえるでしょうか?
実は、当初、僕らはE3前に10程度の会社や組織に本を送ればいいと考えていました。8月のはじめに5~6箇所に2部づつ送ると、いくつかのところはもっと送ってほしいとリクエストしてきました。キャンペーンが成功したとするにはまだ早いとしても、既にぼくらは沢山のブログやゲームコミュニティで話題にしてもらえました。そして実際に2、3の雑誌からはインタビューも受けました。中でも
ニンテンドーパワー誌に取り上げてもらった事はこれまででも最大の賛同を得られました。
僕の目論見では、目的を完了するまでにはもっと『マザー・アンソロジー』を配る必要があると思います。本を受け取ってもらえたところでも、まだ何も反応のない会社もたくさんあります。今回、バーチャルコンソールで『EarthBound』が配信されることになって、彼らにもう一度反応があることを期待しています。
また僕らは、『マザー・アンソロジー』を友人である
Mother Party(Starmen.netのような日本のファンサイト)さんに日本語に翻訳してもらっており、イワタとミヤモト(両氏とも『Mother』シリーズに関わったことがある)に届けたいと思っています。そしてもちろん、シリーズの作者であるシゲサト・イトイにも。
http://www.dsfanboy.com/2007/08/28/ds-fanboy-interviews-starmen-nets-reid-young/
勝負はVC『マザー2』 Starmen.net主催者インタビュー(2)に続く